インドには「児童映画」というジャンルが存在する。「児童映画協会」という、国の映画局傘下の機関まであって、子供たちのための映画を作ったり、子供向け映画の製作を推奨したりしている。また、国家が授与する映画賞「国家映画賞」にも、「最優秀児童映画賞」というカテゴリーがあり、受賞作は公開されて結構な興行収入を挙げることもある。その2014年の受賞作で、南インドを中心にヒットした作品が、日本でもAmazon Prime Video等で見られる『ピザ!』(2014年)である。
貧しい兄弟が喉から手が出るほど焦がれたのは……美味しそうなピザ!
『ピザ!』の原題は『Kaaka Muttai』(タミル語で意味は「カラスの卵」)と言い、南インドのタミル・ナードゥ州チェンナイが舞台となる。チェンナイの中心部の川沿いにある、大きなスラムに住む幼い兄弟が主人公だ。一間だけの小さな家に母、祖母と共に暮らす兄弟は、父が目下拘留中。父には持病もあるため早く保釈に持っていきたいのだが、母が雇った弁護士はお金を取るばかりで何もしてくれない。母は小さな工場で働き、兄弟も線路に落ちている石炭のかけらを集めては、売りに行って家計を助けている。そんな兄弟の楽しみは、近所の子供たちが遊ぶ広場の木に登って、カラスの巣から卵を失敬することだった。
ところがある日、広場が立ち入り禁止になり、木は倒されて整地され、そこに大きなピザ店ができる。店のオープン時には映画スターのシンブ(本人が出演)が招かれ、おいしそうにピザを食べてみせた。ピザに憧れた兄弟は、何とかお金を貯めてピザを食べたいと望むが、2人が稼げるのは1日に10ルピー(15円)程度。300ルピーもするピザは高嶺の花だ。兄弟は仲良しの鉄道作業員“ニンジン”おじさんに助けてもらい、石炭をくすねてやっと300ルピーを貯め、ピザ店へと向かうのだが……。
兄弟の名前は最後まで出てこず、兄が自分たちを呼ぶ「大きなカラスの卵」と「小さなカラスの卵」という呼び名で物語は進行する。母親や祖母、そして拘留中の父にも固有名詞はなく、それでいてそれぞれが存在感のある人物として描かれる脚本がまず素晴らしい。脚本も監督のM・マニカンダンが担当し、彼はさらに撮影も担当しているのは驚きだが、これが彼の初長編劇映画だと聞くと、さらに驚きは増す。子供向け映画にありがちなオーバーな演技は抑えられ、主人公の少年2人の魅力を十二分に引き出した演出力も、とても初監督作品とは思えない。
多くの観客に支持された、ちょっとトリッキーな展開と優しい眼差しに満ちた作品
スラムを舞台にしていることから、ピザを手がかりに格差社会を描く作品だとすぐに見当がつくのだが、スラムの住民を取り囲む社会構造を上手に描いて見せてくれるのも興味深い。
広場を買収したピザ店の店主は、地方議会議員に買収の口利きを依頼し、紹介料という名目の多額のリベートを払う。スラムとその周辺を地盤にしている議員は、後日少年たちとピザ店との間にトラブルが生じた時も、しゃしゃり出てフィクサー的役割を果たそうとする。彼の息のかかったチンピラとその弟分は、議員から命じられると、1人100ルピーの報酬を餌にスラム住民を動員するのが仕事だが、少年たちとピザ店とのトラブルを知って、ピザ店から慰謝料をせしめようと真っ先に乗り込んで失敗する。このワルというか権力者側3組の描き方も、ステレオタイプでない上に、主人公の母や他の住民からは正体を見破られているところが面白い。経済的、社会的格差はあるが、賢さではスラム住民の方が上だ。
出演者のうち有名な俳優は、母親役のアイシュワリヤ・ラージェーシュと、チンピラの弟分役のコメディアン、ヨーギ・バーブぐらいなのだが、映画初出演の兄弟役――兄を演じたヴィグネーシュも弟役のラメーシュも、とても魅力的な演技を見せてくれる。特に弟役のラメーシュは、かわいくてハートを射貫かれる。また、兄弟があまりにもピザに固執するので、ドーサ(南インドのクレープ)の上にピーマンやトマトを置いてピザもどきを作ってやろうとする祖母役のシャーンティ・マニも、映画経験はほとんどないようだが、やさしい祖母、姑として、強く印象に残る。
スマホを使ったちょっとトリッキーなストーリー展開も楽しめて、多くのインド人観客に支持されたことがよくわかる作品だ。日本ではこれまでDVDはレンタル盤しかリリースされずセル盤がなかったのは残念だが、配信で手軽に見られるのはありがたい。
小規模ながら秀作の多いインド児童映画をもっと観てみよう!
こんな風に、見応えのある作品も多いインドの児童映画だが、Netflixにもいい作品がアップされている。『運命の糸』(2006年)のナーゲーシュ・ククヌール監督作『レインボー』(2015年/ヒンディー語/原題『Dhanak』)は、ラージャスターンの半砂漠地帯を舞台に、目の不自由な弟に角膜移植を受けさせようとする姉の話だ。シャー・ルク・カーンが角膜移植推進キャンペーンのキャラクターとして登場し、ちょっとからんでくるところがサービス満点で、この作品も国家映画賞の最優秀児童映画賞を受賞している。目が見えない弟がえらく生意気なところも、ククヌール監督作品らしくて個性的だ。
また、『砦島の思い出』(2014年/マラーティー語/原題『Killa』)は、国家映画賞の最優秀マラーティー語映画賞を受賞した作品で、父を亡くし、母の転勤で内陸部の都市プネーから海沿いの町に転校してきた少年が主人公。内気な少年と、同級生の悪ガキたちとの交流が、豊かな自然の中でみずみずしく描かれる。少年の母に扮するのが、『ガリーボーイ』(2018年)で主人公ムラドの母親を演じたアムルタ・スバーシュなのも嬉しい。
児童映画は大スターが出ていなかったり、興行収入トップ10に入る作品ではなかったりすることから、日本での公開作は『スタンリーのお弁当箱』(2012年)ぐらいしかない。『スタンリーのお弁当箱』もAmazon Prime Videoなどで見られるし、捜すと他にも面白いインドの児童映画があるので、この機会に楽しんでもらえればと思う。
文:松岡環
『ピザ!』はAmazon Prime Videoほかで配信中
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May 28, 2020 at 09:36AM
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南インド・チェンナイのスラムが舞台! 貧しい兄弟の「食べてみたい!」を描いた可笑しくも愛おしい児童映画『ピザ!』 | 映画 - BANGER!!!(バンガー!!!)映画評論・情報サイト
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