「僕も完成版を観た時には、うわぁ、スゲェなぁ!って興奮しました。もちろん、昔からのゴジラファンにも楽しんでいただきたいですけど、“モンスターヴァース”を追いかけてきているファンにとっては絶対に面白い作品になっています」。
ハリウッド版ゴジラとコングが激突する映画『ゴジラvsコング』が、ようやく“ゴジラ発祥の国”日本で公開となった。海外では既に大ヒットを記録しており、アメリカでは興収1億ドルを達成。コロナ禍で公開延期が続いていたが、満を持しての日本上陸だ。
このハリウッド大作に日本から唯一出演した小栗旬が、THE RIVERの単独インタビューに登場。小栗はモンスターヴァース作品の中でも『キングコング:髑髏島の巨神』(2017)が大好きだと言う小栗は、「あのコングとゴジラがぶつかるんだというだけで、かなりワクワクしていました」と、いちファンとしても大興奮だ。
小栗が演じたのは「芹沢蓮」という名の科学者で、劇中では凛とした佇まいが印象的。シリーズ前作までに渡辺謙が演じていた芹沢猪四郎の息子で、父から学んだタイタンに関する知識と共に、エイペックス社で革新的な次世代技術改革を担う、重要な役どころだ。小栗が現場で受けた指示は「ずっとミステリアスな感じでいてほしい」というもので、それに忠実に従って演じたと話す。
ハリウッド映画へは初挑戦となったが、実は別作品の撮影スケジュールとの兼ね合いで、いちどは辞退している。英語での芝居に対する不安もあった。「オファーを頂いて、嬉しいな、やりたいなとはもちろん思いました。けれど、自分の周りで、英語を使って仕事をされている人たちからは、『今のレベルでは、英語での芝居は厳しいよ』って言われていて。そう言われている間は、自分で望んでいける場所じゃないなとは思っていたのは事実です」。
辞退した後も、製作のレジェンダリー側から「もう一回考えてくれないか」と熱烈な再オファーを受けた小栗。そこでスケジュールが重なっていた『罪の声』の制作サイドに相談をもちかけると、なんと撮影を一ヶ月ずらしてもらえることになった。「そのおかげでオーストラリアに行くことができたんです。周りの皆様がサポートしてくれたおかげで辿り着いたので、感謝しています」。
海外の現場で、英語での芝居に挑むにあたっては、クランクインの半年ほど前から毎日「ひたすらコーチングを受けて」準備。小栗は『ゴジラvsコング』以前にも、ドラマ「二つの祖国」(2019)で日系アメリカ人二世の役を演じて英語のセリフに挑んだことがある。『ゴジラvsコング』を経て、英語で芝居をすることの「意味を徐々に理解できるようなった」と、自身の進歩を実感している。
「『二つの祖国』では、自分の英語のセリフが録音されたものをひたすら聞いて、何度も何度も言って覚えるという作業でした。どの単語にアクセントをつけるべきかや、こういう表現をしたいならこういう抑揚になる、とかはあまり考えず、とにかく丸暗記していくという作業だったんですね。でも今は、ここにアクセントを置くと、どういう意味で伝わることになるのかとか、英語でも細かいニュアンスが出せるようになってきた。なぜここにアクセントを置いてはいけないのかということも理解せずに喋ってた時期があるので。今ももちろんあるんですけどね。『そこにアクセントは置いてはいけない』とレッスンで言われることがある。自分の感覚だと、きっとここを押すんだろうと思って言うんだけど、『ネイティブはそんな言い方はしないから、気をつけてね』みたいな。ひたすらやって慣れていくしかないんですね」。
『ゴジラvsコング』で特に苦労したセリフは“Like spawning salmon”というもので、「何度やっても“salmon”に聞こえないって。何百回やり直したかわからない」と苦笑する。
初のハリウッド大作の現場では「常にドキドキしていた」と言う小栗には、「反省もしましたし、悔しい思いもしました」と実直な思いも。「英語力は一朝一夕で良くなるわけじゃない。積み重ねによるものですし、舌が慣れて口が動くようになるもの。継続していかなければいけないものだし、それをし続けない限り、その場所に立ちたいとは言っちゃいけないんだなということを感じる瞬間はありました。語学習得に対する思いが、ちゃんと芽生えましたね」。
「(現場での指示を)聞き逃すと意味がわかんなくなっちゃうから、もう“全集中”でした」と笑いながら、唯一の日本人キャストとしての参加は「とにかくしんどくて、孤独だった。何をすればいいのか、何をしたら正解なのかがわからない」と苦悩を振り返る。その中で、今作への小栗の出演に繋がる道を開いた先輩の足跡を感じることがあった。演じた芹沢蓮の父、芹沢猪四郎役の渡辺謙の存在だ。
小栗がオーストラリアに旅立つ前、渡辺は小栗のために食事の時間を設けてくれたという。そこで「変に気負わず、やりたいと思うことをやってきなさい」と、まさに父のようなアドバイスを受けた。実際に海外の現場に飛び込んで、「やっぱり謙さんはすごい」と実感することになる。『ゴジラvsコング』では、シリーズ前作までに渡辺がこだわりぬいた「ゴジラ(Gojira)」の日本語発音が息子役の小栗に引き継がれている点にも注目だ。
日本人として、そしてアジア人として世界に挑んだ小栗。渡辺謙と同じく、今やハリウッドに主戦場を移した真田広之の名を自ら挙げ、「本当にすごいことなんだと実感した」と感服しきりだ。「真田さんは日本での仕事を止めて海外でのチャレンジをされているわけで。しかも、どんどん結果が出ているじゃないですか。あの方は、人生をかけてあの道を選んだんだな、と思います。そういった先輩方を見て、自分はどれだけ出来ているんだろうか、と立ち戻ることもあります」。
「日本は国内にしか目が向いていないから、なかなか外の世界に出ていくことが難しい」とも危惧する小栗だが、既に海外で挑戦する同世代の仲間から刺激を受けることもある。米在住で、ネイティブ並みの英語力を持つ赤西仁からは「ちゃんと英語勉強してるか?」とメッセージをもらうことがあるようだ。「仁はものすごく勉強して英語を手に入れている。あいつに言われると、頑張らなきゃなって思いますね(笑)」。
『ゴジラvsコング』での出演について、小栗は「自分の出番は当初から半分くらいカットされていると思う」と明かす。「完成したら初登場シーンも全然違うものになっていて。撮影が終わってからも内容が変わっていったので、去年(2020年)の1月に別のセットで追撮もしました」。もっとも、全て「いい経験になった」と糧にしている。「日本だと、シーンがカットされたら、『あそこカットしちゃってすみませんでした』って真剣に言われるのに、アメリカ行ったらズバズバ切られるんだなと。痛快でいいですよね」。
時間と人材をたっぷりかけられるハリウッドの撮影規模は羨ましかった。「日本だったら午前中で撮り終えてしまうような量に、3日くらいかけるんですよ。すごいなぁと思いました。時間をかけられる、人を使えるということは、それだけ予算があるということだから。さすがにこんなに要らないんじゃないかってくらい撮っていましたけど。でも、それができる現場のタフさがあるというのは、ひたすら羨ましい。あれだけ撮っていれば、絶対に良いカットが生まれるはずなので。
日本だと『大丈夫だったかなぁ……』って思ったまま終わる撮影、結構あるんですよ。でもハリウッドの場合は、もうやんなくてもいいんじゃないですか、ってくらいやってたので(笑)。みんながどんどん新しいことを試していくから、見ていて楽しかったです。日本の場合は、『まだ撮るのかよ?』って言う役者もいると思うんですけど、向こうの場合はそれが当たり前なんでしょうね。誰も文句を言わないし、粛々と演じていくという環境。素敵な現場だなと思いました」。
外の環境に出たことで、日本の製作現場の質の高さに気付かされることもあった。「フォーカスマンなんて、この人は色々なところで活躍しているんだよって聞いていたのに、3回に1回はフォーカスが合ってなかった(笑)。日本だったらめちゃくちゃ怒られるやつだなぁと。だけど人数もすごく多いし、日本みたいにひとりでやらなくちゃいけない仕事が3つ4つあるという状況じゃないところは羨ましいですね」。だからこそ『プロフェッショナル』が生まれやすい環境なのだろうと、小栗はハリウッドでの観察を語る。
撮影は主に月曜日から金曜日にかけて行われ、土日はオフ。共演のデミアン・ビチル(ウォルター・シモンズ役)からは休みの度にゴルフに誘われたり、何度か食事に出かけたりと、交流を深めたようだ。「デミアンは、過去の話をたくさんしてくれて。彼もメキシコから20代で(ハリウッドに)出てきているんです。最初は全然英語がわからないけど現場に行って、監督に言われたこともよく分からないまま『オッケーオッケー!』って芝居したら、全然ダメだったみたいで。そこから5年間アメリカにいたんだけど、何の仕事もなかったからメキシコ帰ったんだよ!って言ってました(笑)。で、メキシコで俳優業を頑張って、英語のトレーニングも続けて、30過ぎてアメリカでの仕事がだんだん波に乗ってきた。だから君が今置かれている状況はすごくよく分かる、頑張れ、みたいな話をしてもらって」。デミアンからは様々なアドバイスをもらったといい、「本当にお世話になりました」と、良き先輩との出会いを喜んだ。
ほか、“アレックス”と呼ぶアレクサンダー・スカルスガルド(ネイサン・リンド役)とは「このクレイジーなパンデミックが終わった暁にはいつか会おう」とメッセージのやりとりをしているといい、本作が中国で大ヒットを記録した際にはプロデューサーから感謝の手紙をもらったと、今もチームの仲が続いていることを話した。
同じアジアでも、韓国や中国の作品や俳優はアカデミー賞などの大舞台でも評価される機会が大きく増えた。「次のマーベル映画でも……」と筆者が言いかけると、小栗は「マ・ドンソクはかなり行くんじゃないですか」と身を乗り出す。2021年11月公開予定のマーベル映画『エターナルズ』にもメインキャストのひとりとして出演する、韓国出身の俳優のことだ。「次はマ・ドンソクだと思うな。あの方は韓国の映画でも素晴らしい活躍じゃないですか。コロンバス州立大卒で英語も堪能。彼は全ての準備が出来ている状態で行っている。マ・ドンソクは楽しみですね……」。
もちろん、若い世代に大きな影響力を持つ小栗が『ゴジラvsコング』でハリウッド進出を果たしたことは、間違いなく快挙であるし、日本の若い世代にも大きな夢と希望を与えたはずだ。そう投げかけると小栗は「いろいろなことを言われる人はいますが、結局、『夢は見たもん勝ち』だと思うんですよ、僕らの仕事って」と答える。「自分はずっと見てきた夢を未だに追いかけている。周りから『何言ってるんだ、お前』なんて言われたとしても、別に関係ねぇやと思うし。失敗することを恐れていると、結局何もしなかったことと同じだと思うので、それよりは動いたほうが良い」。
日本では「チャレンジできる環境を作るほうが難しくなっているのは事実」と認めながら、今後は大河ドラマの出演のため、1年以上は日本で過ごしながらも「土台を厚く」して準備を進めておくつもりだ。ハリウッドには「決めてはいませんが2023年以降で、タイミングが合えば活動的に飛び込んでいってみたい。受けられるオーディションも受けていきたいです」。
それでは、一緒に仕事をしてみたい夢のハリウッド監督は?しばらく熟考した小栗は、目を輝かせてこう教えてくれた。
「ガイ・リッチー。ガイ・リッチーの映画、好きなんですよ。出たいなぁ。『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1998)、大好きなんです」。
『ゴジラvsコング』は大ヒット上映中。
▼ゴジラvsコングの記事
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