ドージャ・キャットとタコベルとメキシカンピザ──。米国で爆発的な大ヒットを生んだこのセレブとブランドの出合い、つまり“接合”を、「別の形で再現することはできそうにない」と思った人は、確かに正しい。だが、この出合いとヒットから、マーケティングについての教訓を学ぶ方法はある。
これはすべて必然だった。恐らくは、そうだった。ファストフードチェーンの米タコベルは2022年5月末、かつて人気を誇ったメニューを復活させてからわずか2週間足らずで、その「メキシカンピザ」の材料がすでに尽きかけていると発表した。会社側によると、メキシカンピザへの顧客からの需要は、同商品を最後にメニューに掲載していた20年11月当時の7倍に上っている。この商品はタコベルの合理化努力の一環として、メニューから外されていたのだ。
爆発的な需要が生じたのは2つの要因のおかげだ。まず、このファストフードのお化け商品は、ほとんど誰に言わせても、食べる側の五感に訴えるような素晴らしい味付けであることだ。さらに、圧巻のボリュームという点も味付けにプラスに働く。次に、タコベルは音楽アーティスト、ドージャ・キャットとのユニークなパートナーシップのおかげで、メキシカンピザ復活について莫大な宣伝効果を享受した。
かいつまんで説明しよう。ドージャ・キャットは20年にメキシカンピザの復活を求めるツイートをTwitterに投稿した。やがてタコベルがドージャと公式パートナー契約を結び、22年2月のスーパーボウル(全米プロフットボール決勝戦)で流すCMに起用した。ドージャはその間ずっと、動画投稿アプリ「TikTok」などの個人的なプラットフォームや野外音楽祭「コーチェラ・フェスティバル」の舞台を使い、メキシカンピザの復活を宣伝した。
すべてのマーケターが夢見る“ユニコーン”のような大ヒット
これはセレブやアーティストがブランドと組む、ごく普通のパートナーシップではない。セレブがブランドを好み、ブランドがセレブを尊重するという二重の関連性、いわば「魔法のような二重の虹」が、ありとあらゆる大手マーケターが日々追い求める爆発的な大ヒットにつながったケースだ。関連性がみじんもない巧妙なアイデアを、次々かみ砕いては外に向かってはき出し続けるのが当たり前にもかかわらず、マーケターはこうした“二重の虹”がいつか自分の頭上にも架かることを望み、祈り、夢見ている。
ここでさらに目覚ましいのは、このマーケティングは、タコベル自身はおろか、他のブランドも容易に再現できるものではないことだ。マーケターにとって幻の“ユニコーン”と呼んでもいいかもしれない。だが、類まれな偶然のように思える見かけにかかわらず、このケースのような成功は実は、しっかりした基盤の上にこそ成り立っている。ブランドにとって、マーケティング上の絶好のチャンスと文化的ブレークスルーがより頻繁に起きることを可能にするような基盤だ。
タコベルがメキシカンピザをメニューから廃止したとき、ドージャはどんなブランドのファンでもやるように、失望を表明するためにツイートした。
この大義に対する情熱は時間がたっても衰えず、廃止から約1年後に再びツイートした。そして今回はタコベルがドージャの要求に反応した。
クリエイティブな権限を委ね、米マクドナルドなどと一線を画す
タコベルは広告代理店ドイチェLAとともに、ドージャと正式契約を結んだだけでなく、セレブとブランドのパートナーシップで一般的に見られるよりも大きな制作上の権限をドージャに与えた。その結果が、大型予算がつくスーパーボウルのスポット広告のような公式広告と、ドージャ・キャット個人のTikTokフィードでのブランド名登場との興味深い組み合わせだった。
この2つに橋を架けるように、ドージャは伝説的シンガーソングライターのドリー・パートンとのコラボでタコベルをテーマにしたTikTokミュージカルを制作した。ブランドのファン、それもたまたま地球上で最も人気があるポップスターの1人だったファンとの正真正銘の関係に根差す大型宣伝広告の誕生だ。
もしこれに聞き覚えがあるなら、読者は米マクドナルドが現在も継続している「フェイマス・オーダー」キャンペーンを思い出すかもしれない。有名人のマクドナルドファンにお気に入りのメニューを選んでもらい、限定版マーチャンダイズを組み合わせて共同ブランドを展開し、あっという間にすべてを完売する画一的なキャンペーンだ。マクドナルドはこれまでに、ラップ歌手トラヴィス・スコット、シンガーソングライターのJ・バルヴィン、韓国のBTS(防弾少年団)、女性ラップ歌手スウィーティー、そしてマライア・キャリーでフェイマス・オーダーを展開した。この非常に拡張性が高いセレブフォーマットには一見、終わりがない。タコベルとドージャ・キャットの共同ブランドは、宣伝の仕事(および、そのやり方)がこのアーティストだけに特有なものだという点で一線を画す。
タコベルのスポークスパーソンとしてのドージャ・キャットの魅力の一部は、形式ばったところが一切ないことだ。タコベルはこれに乗っかり、ドージャにスーパーボウルのCMを事前に「リーク」させた。彼女はコーチェラの舞台でメキシカンピザの復活を認めた。22年3月には、女性アーティストが次々、TikTokで大きな数字をたたき出すよう所属先レコード会社から圧力をかけられることについて投稿する現在進行中の(そしてどこか不安を感じさせる)音楽業界のトレンドをまねたようだった。ただし、ここでドージャは公然と、「契約に基づく」タコベルのCMソングを書かなければならないことについて不満をこぼしていた。
タコベルはこれに便乗し、「契約で義務付けられているからではないが、おめでとう」と返している。
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