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Thursday, December 19, 2019

マダム川添を想う大葉のピザ|美しい暮らし(幻冬舎plus) - Yahoo!ニュース

矢吹透

子供の頃、週末の昼などに、母が作ってくれたスパゲッティ・バジリコは、スィート・バジルではなく、大葉を使ったものだった。

これは、飯倉「キャンティ」のマダム川添が考案したレシピである。

飯倉片町のイタリアン・レストラン「キャンティ」は、日本人が海外に出ることが、今よりもずっと困難であった時代、イタリアに渡り、芸術を学び、日本の芸能界・社交界のパトロネス的な存在として、文化・芸能・ファッションなどにさまざまな影響を与えた伝説的な女性、川添梶子さんが、ご夫君と共に作り上げた店である。 

一般家庭の主婦である僕の母が、足を踏み入れたこともない、その店のレシピを真似したくらいであるから、マダム川添の及ぼした力というものは、とてもとても大きかったと言うことが出来るのではないだろうか。
 

昭和の後期まで、日本でフレッシュなスィート・バジルを手に入れることは困難だった。

平成に入り、高級スーパーに赴けば、生のバジルの葉が手に入るようになったが、2~3房が入った小さなパックで、300~400円はしたような記憶がある。或いは、もっと高かったかもしれない。

今のように、大抵のスーパーで、バジルのいっぱいに詰まったひと袋が、100~200円程度で並んでいるさまを見たら、マダム川添はどのような感慨を抱かれるのだろう、と僕は、その会ったこともない女(ひと)のことを考える。 

テレビの業界では、撮影に使う料理のことを「消え物」と呼ぶ。

ドラマなどの料理を食べるシーンで使う消え物は、基本、スタジオの一角で、フード・コーディネーターなどの担当スタッフが準備する。

リハーサルでは、料理にラップをかけたまま、食べる体の演技をするだけ、というのが普通だが、本番では、料理を温かい、なるべく美味しい状態で並べ、出役の人たちは実際に、それを食べる。

一発オーケーとは限らないので、何回か、繰り返せるだけの予備が用意されている。

テレビの世界で、予備の数は「番」という単位をつけて呼ばれる。

3回繰り返せるだけの予備がある、という時には、例えば、「この伊勢エビのお造りは、3番用意してあります」という言い方をする。

泥や血などで汚れる可能性のある衣装も、撮り直せるように、同じものを2セット用意していたら、「この衣装は2番あります」という。

先日、テレビのディレクターである友人からの依頼で、我が家で「消え物のブツ撮り」をすることになった。

ブツ撮り、というのは、文字通り、物を撮ることである。被写体として人間が絡まない、モノ単体の撮影をそう呼ぶ。

我が家のキッチンで、僕が作った料理を何パターンか撮影する、という内容だった。

リクエストされた料理のひとつがピザだったので、何番か次々に用意できるよう、僕は大量の生地をあらかじめ準備した。

運よく、ピザの撮影は、最初に焼いた一枚でオーケーが出たので、我が家の冷蔵庫にたくさんのピザ生地が残ることになった。

その週末、友人がふらっと遊びに来た。

冷蔵庫にピザ生地はたくさんあるのだが、載せる具材としてめぼしいものが、チーズの他に、特に何もなかった。

そこで、ふと思いついた。

我が家の冷蔵庫には、大葉がいつもストックしてある。

これは、毎朝、パートナーに作る弁当のおかずの仕切りとして、大葉を使うためである。

プラスチック製のバランはどうも、使う気になれない。
 
マダム川添にインスパイアされたピザを焼くよ、と僕は友人に言った。

バジルの代用として、大葉を使ったパスタを考案したマダムなら、きっとバジルを使うピザも、大葉で代替したのではないかと思ったのである。

ピザ生地にチーズを載せて焼き、焼き上がったら、上から刻んだ大葉を振りかけ、大葉のピザの完成である。

食べる前に、エキストラ・ヴァージンのオリーブ・オイルを回しかける。

シンプルだが、あっさりと爽やかな、美味しいピザが出来上がった。

■矢吹透
東京生まれ。\n慶應義塾大学在学中に第47回小説現代新人賞(講談社主催)を受賞。\n大学を卒業後、テレビ局に勤務するが、早期退職制度に応募し、退社。\n第二の人生を模索する日々。\n

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